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創作小説

30th Day ミッション・イン・ロシア:王者の風(前編)

※ソラショコのソォラ様よりご依頼頂き、寄稿させて頂いたリレー小説です。





『Home and Bloody Days 2nd Season』

 30th Day ミッション・イン・ロシア:王者の風(前編)


【あらすじ】
 モスクワではじめての実戦を経験するシュンたち。退屈な後方任務のはずだったのだが……。訓練生たちの日常と戦闘を描く、有志たちによるドタバタロボットアクション小説。




【以下本編】




 一日の始まりは穏やかだった。

 少し冷めた風が静かにそよぐ朝。さほど着込む必要もない天候で、陽射しが強く感じられる日だった。普段と違う点があるとすれば、それは異様とも言える警備の物々しさ。堅い制服に身を包む連邦軍人が大通りにずらりと並び、街中を闊歩している。それを除けば穏やかで静かな朝だった。


 その状況にあるモスクワにて、「彼ら」はどこにでもあるようなありふれたマンションの一室に陣取り、自分達のセーフハウスにしている。その一員であるフォウ=ギャンガは上官を呼びにその一室を訪れた。土足のまま進み、奥の扉を開くと漂う珈琲の薫りに気づく。本来ならリビングルームであるはずのそこには、一通りの諜報の為の設備が整い、隊員の一人が忙しく端末のキーボードを叩いていた。


 フォウはキッチンの近くで椅子に腰かけている男の方へと進む。彼らは、アリアス軍の隠し持つ牙と爪。特務部隊「FaC」の最前線にいる。

「失礼します。先程、ブラックベアの隊長から連絡がありました」

「おう。おつかれさん」

 目の前の男は、両手で広げた新聞から目を離すことなく、気のない声で返事をした。

「……また、経済新聞ですか?朝から優雅なものですね」

「何分、金が無いものでな」

「で、今度は投資ですか。まずはギャンブルから離れるべきでしょう」

「オヤジさんから教わってんだ。かじってみた。知識をつけてきちんと投資したら稼げるらしいぞ」

「ろくな種銭もないのに……」

 暫くしてから、新聞から目を離さなかった男がフォウの方へ振り返った。


「で、熊の大将は何だって?」彼のマイペースには慣れているのか、フォウは淡々と報告を続ける。

「進入路は確保した、と。前線の侵入経路のデータが送られてきています」

「結構だ。正直なところ、あまり期待はしてなかったんだが、意外と仕事が捌けるじゃないか。たまにはアウトソーシングも悪くねぇな」

「呑気な……。で、その投資とやらはひと段落しましたか?」

「ぼちぼちだ」

 誌面をあらかためくり終え、テーブルに新聞を投げ置いて席を立つ。掛けていたコートに袖を通した。

 男の表情が途端に険しくなる。

「行くぞ。仕事だ。セイラー、いつでも撤収できるようにしておけよ」

 呼び掛けられた隊員は、事務仕事に勤しんでいた手を止めて頷く。

「行きましょう、セガント副長」

「大捕物だ。ぬかるなよ」

 セガントという男と、それに付き従うフォウ。二人はセーフハウスを後にした。そして少しも経たないうちに、その巧みさで民衆の中に紛れ込み、モスクワにおける自分達の存在感を消した。


 ――地球連邦政府樹立50周年記念式典。

 その舞台が輝かしいほどに、差す影は大きく色濃い。既に「彼ら」はここに潜んでいた。連邦の背後に迫ろうと、自らの影を伸ばして――。



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Home andBloody Days 2nd Season

30th Day(A) 『ミッション・イン・ロシア~王者の風(前編)』

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 モスクワの一流ホテルのスイートルームに、アヤナ・F・バリアントが畏まった態度で入室したのは午前十時の事だった。室内には男が二人、それぞれ落ち着き払った態度で彼女を待ち受けていた。

「以上、本日の警備状況の報告です」堂々とした態度で報告を済ませるアヤナ。

「了解した。ご苦労だったな、バリアント大尉」

「はっ!」


 報告を受けた青年は彼女に敬礼した後、視線を部屋の外に向ける。窓から記念式典会場の建物が一望できた。間近にあるこのホテルは地球連邦のVIP専用宿泊施設として確保されている。蟻一匹入り込む隙間もない程に、部屋の四方八方を連邦軍人が厳重に取り囲む。部屋の一室どころか、連邦政府はホテルそのものを借り切り、自分達に纏わる重要人物をそこに集結させている有り様だった。無関係な人間は勿論、連邦軍人ですら事前申請と照合の済んだ人間以外は出入りすら叶わない。


「報告書もよく出来ている。現在の状況が手に取るようにわかるよ」

「恐縮です」

 アヤナは姿勢を正し、改めて敬礼する。訓練生たちを前にした親しみある教官の姿は、ここにはない。

「ただ、ひとつ気になることがあるな」

 アヤナの報告書に目を通しながらつぶやく青年。名をイーア・レイと言う。彼は今回の式典における警備体制の指揮を任されていた。

「何でしょうか」

 イーアは報告書を指で軽くたたきながら言う。その表情は平静さを保っていた。

「訓練生の事だ。特に装備について――。ガトリングにはぺトン弾、キャノンには電障弾。やむを得ないとは言え、アリアスやテロリストを仮想敵とした場合、『敵を止める』だけの装備では少々物足りなくないだろうか」

「は……。ですが」

「ああ、判っている。規則だからな。上が決めたルールをここで論じても仕方がない。管轄外のおれがあれこれ言うのもおかしな話だ。ただ、敵がテロリストだとしたら、制圧した敵機が自爆することもありうる。半端はよくないと思っただけだ」

「同感です。特に今回、彼らが実戦に臨まねばならない可能性を考慮したら……」

「まぁ、それでも現状を考えると、敵を止めるだけでも訓練生としては上々の成果だろう。その後はおれ達がなんとかしよう。君はとにかく、自分が預かる生徒達のことを考えていてくれればいい。教え子なんだろう?」

「はい。ありがとうございます」

「有事の際には、お互いベストを尽くそう」

「はっ!!」

「ところでだが――」

 イーアが後ろに振り返った。ここでアヤナは少し胸が高鳴る。自身に微かな緊張が走った。


 これまでアヤナはイーアと話をしていたが、部屋には奥にもう一人の人物がいる。これまでアヤナの報告を聴きながら静かに佇んでいた。元々このスイートルームはその人物の為に誂えられた部屋で、正確に言えば、その人物の身辺警護のためにイーアは彼と常に行動することを許されており、また、それを命じられている身である。アヤナにとってはあらゆる意味で、雲の上の人物と言って差し支えない。


「キャスバル大統領。あなたからは何か一言、ないのか?」

 地球連邦政府大統領。名をキャスバル・アズナフル。その名が示す通り、世界最高の権力をその身に背負う男。イーアに尋ねられるまではその場で眠るように佇んでいた彼が、すうっと身を起こして視線の先の二人を捉えた。

「アヤナ・F・バリアント大尉」キャスバルがゆっくりと口を開く。

「はっ!!」

「――そう固くなることはない」

 ここで急にキャスバルの表情が綻ぶ。アヤナは不意を打たれた気分になった。

「えっ……あ、はい」

 だが軍人である以上、最大限の礼節を以てあたらねばならない。本来であれば、生半可な階級の者ではここに立つことすら許されないのだから。

「私の顔は、そんなに緊張を呼んでしまう顔かね?」

「い、いえ……」

 珍しいパターンで、アヤナはどう対応したものか逡巡する。不意に自身が嘗ていた隊の隊長の面影が脳裏に過った。イーアが横から口を挟む。

「からかうなよ。トップの前だ。気を張るに決まっているさ」イーアがそう言うものの、どうやら納得できかねるらしく、人前に立つ人間らしい大袈裟な振る舞いで妙に悔しそうな仕草を見せた。

「しかしだな、イーア。これは由々しき問題だろう。私の顔を見て幸せになるどころか、緊張させてしまうはよくない。あまりによくないな。今の私は軍人ではなく大統領なのだぞ」

 そう言って今度は一人で悩みだした。アヤナはもはや困惑していたが、それを眺めているイーアはいつものことと割り切って受け流している。

「すまない大尉。彼はいつもこうなんだ。気にしないでくれ」

「は、はぁ……」

「人を唐変木のように言うなよイーア。ところで、バリアント大尉……」後ろで唸るようにキャスバルが声を出した。赤い軍服に袖を通している。人の目を引き寄せる、鮮やかな赤だ。

「は、はい!」当のアヤナは急に呼ばれて焦っていた。

「君の部下たちは、まだ若いのだろう?」

「はっ!それでいて初の実戦です。部隊の足を引っ張らぬように……」

「そうではない」

「えっ」

「その若さは、我ら連邦が世代を未来へ繋げていく証だ。無論、君も含めて」

「未来――?」

「そうだ」

 キャスバルの瞳がアヤナを真っ直ぐと捉える。

「護ってあげたまえよ」

 この言葉を聴いた時、アヤナの胸に熱い何かが灯った。

「以上だ。引き続きよろしく頼む」

「はっ!失礼します!」

 敬礼し、踵を返してスイートルームを後にする。

「何も起こらなければいいが――」

 退室する際、イーアがこぼした言葉がしばらくアヤナの耳に残った。




 モスクワの晴れた日、その清々しい空と陽気に包まれた都市の一角。Mesに乗り込んで待機中のボクらは街ゆく人々の景色をただ眺めているだけだった。

「私もお買い物行きたーい」

 コックピットの後ろから、まるで緊張感のない声がした。

「クルミ。仮にも任務中なんだけど……」おまけに初任務だって言うのに。

「だって、もう何時間待機してると思ってる?」

「二時間十五分。まだ式典は始まってすらいないよ」

「ヒマだよ~」

「なによりじゃないか」

「街を歩く人たち、みんな楽しそうでいいなぁ。みんな式典を見に行くのかな」

「そりゃあ、そうなんじゃない。歌姫だって来るしさ」

「いいなぁ~。私も任務じゃなくて純粋に楽しみたい」

「初任務からしてその言いぐさは……」と言いつつ、同じコックピット内のクルミの方をちらりと見てみた。ヒマを持て余し、すっかり不貞腐れてしまっている。

 ボクら、112-77訓練小隊は今日、モスクワ中心部の一角で警備の任務についている。いつもの訓練とは違う。本当の任務。


 初の実戦だ。


 ボクらが所属する地球連邦の政府が樹立されてからちょうど五十周年。それを盛大に祝う象徴としての式典が、ここモスクワで今から開催される。その厳重な警備を担う一小隊としてボクらが配備された。(実際は、50周年は去年なんだけどね。去年はテロにあって中断されたので、今年改めてすることになったんだ)

 だけど、警備の任務である以上、基本は何か起こらない限りここでずっと居続けるだけ。おまけに最前線の第一次防衛線からは遠い後方の配置。後方ということはつまり、市街地のど真ん中の一区画ということになる。もしここまで敵に攻め込まれるような状況にでもなろうものなら、それはまさしく本隊が都市ごと壊滅状態になっているだろう。実戦経験のない訓練生に対する扱いとしては無理のない配置だとボクも感じる。軍人は任務の時間より訓練と待機の時間の方が圧倒的に多いとよく聴かされていた。待つのも任務のうちだ。


 ただ、そうして待機し続けている内に、街の大通りは活況を呈していた。道行く人々は式典会場へと向かって列をなし、みんな活き活きとして歩いて行く。その中には当然、妹のクルミやボクらと同年代の子たちもたくさんいた。

(確かに、クルミがそう思っちゃうのも無理ないのかな……)

 ちょっと、逡巡してしまう。

『待機中だよ。またの機会だ』

 そんなことを考えていたら、無線越しに、落ち着いたシンヤの声。

「シンヤ。今は任務中だから。ありがたいけど、こいつの独り言まで無理して拾わなくてもいいんだよ」

『判ってる。ま、それでも緊張が紛れるからな』

『張りつめっぱなしより良いと思います』

 セカンドの二人がクルミの私語に付き合い、しばらく談笑を続けている。

「――それならいいけど」

「あ~、やっぱり初任務で緊張してるんだ?」

「そりゃあね、してるケドさ。いつも通りだよ」

『ああ。その調子で頼むよ隊長』

『頼りにしています』

「うん」

 任務中だと言うのに、いつもの穏やかな空気がまだそこにあった。


 ホントの隊長なら、任務中という自覚が足りないとか、私語は慎めだとか、色々言うんだろうけど、そこまでしてみんなを無理に黙らせる気にはならない。なぜって――。

 ……実を言うと、ボクもそうだから。みんなに悟られないように振る舞っているだけで、本当は――。

不安でたまらない。

初任務。そのプレッシャーに呑まれないよう、自分の気を落ち着かせるところから始めなければならないから。

『軽口もそこまでよ。みんな』

「あっ、先生」

 先生からの通信。それだけでも自分の中で心の負担が軽くなるのがよくわかった。

『いくら待機時間だからって、今は任務中よ。私語は出来る限り慎みなさい』

「す、すみません」こういうときに反応するのもボクの役目だ。

『全く、後方だからって弛んでるんじゃないわよ。シュン、ちゃんと面倒をみなさいね』

「はい」

『今日は私達、地球連邦政府の記念すべき日よ。今日の為に栄えある役目を仰せつかった、その自覚を持ってね。後方だからってのんびりしてちゃダメよ。今日は貴方達にとっても、私にとっても、記念すべき日なのだから』

「私達にとっても……?」

『先生にとっても?』

 ボクらの反応に対し、先生がいつもより少し弾んだ声で言った。

『ええ。今日という日は、私と貴方達が、この世界を護る一員として、新たな一歩を踏み出した日なのだから』

 先生の凛とした口調に、隠し切れない嬉しそうな気持ちが、ボクにも伝わってきた。

『例えどんな任務でも、あなた達は今日、戦線に正しく組み込まれた。これからは地球連邦の戦力として更なる自覚と行動力が求められるわ。でも、あなた達なら大丈夫。私は今、とても嬉しい気持ちでいっぱいなの』

 不思議と、自分の心の中で熱い何かが染み渡っていく感じがする……。先生は更に言葉をつづける。

『私はこの日を忘れない。これまでと、そしてこれからのために。私からはここまで、任務に引き続きあたってね』

「――先生」

 ボクがその言葉に聴き入っていると、後ろからクルミが元気よく「はい!」と答えた。

『了解』

『了解です!』

 続いて、シンヤとヨシノ先輩がそれに続く。


 その場が、先ほどまでの砕けたノリとは違う、程よい緊張感を保ちながらも前向きで快活な雰囲気になった。

 ……やっぱり、先生はすごいや。

『以上、交信を終了するわ。引き続き、警戒を厳に。――がんばって』

 ――プツン、と無機質な音がして、先生との通信が切れた。

 そして、ボクはみんなに尋ねる。

「――どう思った?先生の言葉」

「どうって……素直に感激?」

「うん」

 クルミの顔が少し赤い。照れているようだ。

『なんというか、良かったな』

「うん」

『ええ。今まで頑張ってきて、良かった』

「ですね――」

 ヨシノ先輩の声が、無線越しに小さく少し擦れて聴こえた。

「これからだよ。がんばろう、みんな」

「うん!」

『ああ!』

 クルミとシンヤが元気よく答えてくれた。ヨシノ先輩は無言だったけど、セカンドのコックピットで頷いてくれているのだと、不思議に直感で確信できた。

『なにも泣くことないんじゃ……』

『だ、大丈夫!大丈夫……!!』

 ヨシノ先輩のとりなしている声が、またとてもわかりやすく先輩の心情を伝えてくれる。

 なんだか、すごく微笑ましい。

 その時、砲音がした。

 気が付けば、時刻が正午を示している。音がしたのは会場の方からだ。聴きなれた空砲。記念式典の開始を知らせる祝砲だった。

 ボクら、第112-77訓練小隊は、改めて気を引き締める。

 これからが本番だ。


 地球連邦政府。世界を一つに纏め上げてここまできた組織。その輝かしい功績を讃え、永久の繁栄を祈るための場所が、今日のモスクワ。今日この日この場所が、ボクらにとっても新たなるはじまり。


 みんなと一緒にここまで来たんだ。だから、これからも――。

 立ち上がりは静かだった。ボクらは式典会場に背を向け、街の遥か向こうの地平線をただじっと見つめていた。



to becontinued……


by tuyuri_felnar | 2015-06-21 22:47 | 創作小説

漫画やビデオゲームのライティングや小説執筆等を中心に活動してます。


by ななくさ つゆり