創作小説

34th Day 遠い水平線

※ソラショコのソォラ様よりご依頼頂き、寄稿させて頂いたリレー小説です。



『Home and Bloody Days 2nd Season』

 34th Day  遠い水平線


【あらすじ】
 目の前には、雲一つない快晴の空と、白い砂浜。任務中だったはずのシュンたちの身に起こった一瞬だけのバカンス?




【以下本編】


 今、ボクの目の前には、雲一つない快晴の空と、白い砂浜。そして透き通った青い海があった。つい海に飛び込んで泳ぎたくなる、そんな景色。つまり、ビーチにいる。
 バカンス?そんなワケはない。いたって真面目に任務中……のハズだった。
――なのに。

「兄さん、ジャンバラヤっぽいごはんできたよ」
「ああ、ありがとう」
 隣にはいつも通りクルミがいる。至って普通……いや、そうでもないかな。少し浮かれているようにボクには見える。
「食べる?スプーンある?」
「う、うん。あとで……」

 空があって、海があって、クルミがいて――。
 そして真後ろにはほぼ大破しているボクらの機体、ヴァリアントが今もプスプスと黒い煙をあげながら倒れ込んでいた。

(……どうしてこんなコトになってしまったのかなァ)

「なに、遠い目をしてんの」
「いや、ははは……」
 この非日常に、つい渇いた笑いが漏れた。
 ホント、どうしよう。

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
Home and Bloody Days 2nd Season
34th Day
『遠い水平線』
文 つゆり さん
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-

『敵機、再び接近中!』
 無線越しに鳴り響くのは先生の声だ。
「確認してます!クルミ、いつでもいける!?」
「もっちろん!!」
 ボクらのヴァリアントがガトリングを勢いよく撃ち放つ。今はシミュレータでも合同訓練でもない。実戦の中にいる。
 今日の戦場は普段の拠点から遠く離れた密林だった。大規模な河川が大地を分断し、そのまま海へ開かれた港湾拠点へ繋がっている。主戦場からは距離のある後方なんけど、普段は港で陸揚げされた物資の集積分配拠点でもあり、兵站線の維持という観点から見ても重要な拠点と言える、らしい。
 当然、連邦の制圧地、でもそこにぬけぬけと忍び込んでくるNTたちの散発的なゲリラ活動に連邦は頭を悩まされていた。拠点防衛にも戦力は当然割かれているけど、主だった部隊は最前線に展開されている。それに拠点周辺でちょっかいをかけてくるNT勢力も、大した数でなければ投入されるMeSの数も少ない。そこでボクらが防衛や偵察の任務についているというワケ。
 そして、ボクら第77訓練小隊はいみじくもNTと鉢合わせしまったんだ。
『向こうの動きは挑発と威力偵察のそれよ。油断禁物なのは当然として、大事なのは深追いしすぎないこと』
「了解」
 先生の半ば教育じみた指示がボクらの機体まで届く。
(それにしても、ボクらも戦闘機会が増えてきたな――)
 機体を操る手を休めずに、そんなことを考えていた。

 あの記念式典での一件以来、ボクら第77訓練小隊は、戦地に踏み込んでの訓練が激増していた。格闘訓練、射撃訓練、白兵、訓練キャンプ、偵察行動……それらのカリキュラムに実際の戦地での防衛や後方支援の実地訓練が加わることになった。つまるところ連邦は、ボクら訓練生にも実戦を要求しはじめている――。
「貴方たちが評価されてきているのよ。頑張れば、次のステップが見えてくる。胸を張りなさい」
 先生はそう言った。評価されるのは、ボクだって嬉しい。
 だけど、それより……。
『何機だ!?』
『反応は六機よ!!』
『任せろ!』
 シンヤとヨシノ先輩の阿吽の呼吸だ。ボクらと背中を合わせつつ、お互い多数を相手になんとか踏ん張っている。実質的に指揮を執っている先生の司令がとめどなく入ってくる。
「いつもより多いんじゃない」
「そうだね」
『シュン!シンヤ!河川を背にしてはダメよ!足を取られたら動けなくなるわ。前進して隊形を組みなおしなさい。ゲリラを拠点から遠ざけて、オペレータは常に地形要件を念頭におく!』
「は、はい!」
 今のボクらは、ただ目の前のことをひとつずつ対処していくので精一杯だ。
『私が後詰めをする。思いきりやれ、四人とも』カチアが頼もしい言葉をくれる。
 そう、ただ今は、思いっきり、できることをするだけだ。
「このまま、戦線を保つ!みんな、もう少し踏ん張って!!」
『了解!』
 ボクの言葉に、みんなが応えてくれる。これがあるから戦える。
 そして――。
 突如アラートが鳴り響いた。
『危ない!!』
『シュンさん!!』
「兄さんっ!」
「えっ!?」
 一瞬だった。ゲリラに交じり、不穏が気配が凄まじい迅さで迫ってくるのを感じた。
 漆黒の何かが、目の前に一瞬で迫る。
「何だ!?」
「黒いMeS!!?」
 漆黒のMeS。それにボクらが気付く。
 だが、気づいたときにはもう遅かった。そのMeSのツインアイの奥にある紅い眼光を視認できた時には、もう――。
 被弾。
「……!!?」
 コックピットにいるボクの視界が真っ白になる。それが敵のゼロ距離射撃によるマズルフラッシュだと気付いたのは、しばらく後になってからだった。
 周囲の時が、一気にスローモーションになったかのような……。無線越しに先生が何か叫んでいるが、聞き取れない。
 目の前にいたはずの何かは、閃光が収まったと思ったときには、もう消えていた。反応も既にロストしている。前にベルリンで会った敵機よりも、もっと迅い。機体性能がまるで別物のような――。
『シュン!クルミ!!』
 先生の声で我にかえった。衝撃のあまり頭がクラクラする。
『無事!?』
「操縦桿が、言うことをきかない!!」
「ええっ!?」
 機体が上手く動かせない。当然だ。言ってしまえば機体がもげかけている。バランスどころの話じゃない。コックピットが無事なのが不思議なくらいだ。
 そしてさらに、足元で爆発音がする。衝撃でコックピットが烈しく揺さぶられた。
「地雷!!?まさかこの一帯が!?」
「私達、誘い込まれたの!?」
 思わず機体を跳躍させた。あらゆる箇所からレッドアラートが唸りっぱなしだけど、もう構っていられない。揺れは激しさを増す一方だ。
「しまった!!」
『シュン!応答しなさい!!』
 思わず跳躍した。しかし、制動がうまくいかない。飛びすぎる――。
『お、おい!ファースト、どこへ――!!』
(何をしているんだ、ボクは――!!)
 距離を取りすぎてしまった。おまけに、着地点は林に囲まれている。地形が隊からの視認を困難にしてしまっていた。すぐに合流しなければ。
 でも、どうする。機体があとどれだけもつか。でも今この地帯に降り立てばそれこそ危険だ。シンヤの声が入る。最後の敵機を倒し、後は歩兵のゲリラを残すのみだった。
『シュン!援護を……!!』
「ダメだ!そっちから近寄っちゃ……!!」
 その時、ボクは背後から敵意を感じ取った。
 機体の脚、肩、そして頭。同時に鋭い衝撃が走り、ショートした機器の焦げ臭さがコックピットにも漂う。
 メインカメラに激しいノイズが走る。そしてボクは、そのまま気を失ってしまった。




 誰かに呼ばれている声で、ボクはゆっくりと目を覚ました。
「兄さん――!兄さん!!」
 肩をゆすられているのだろうか。視界が安定しない。
「……クルミ?」
 目の前に、よく知った妹の顔。
「よかった……」
 いきなり抱き付いてきた。
「よかった。よかったよぉ~」
 思わず、クルミの頭を撫でてやる。
「ごめん、心配をかけたね」
「もう、このまま目を覚まさなかったらどうしようって……」
 今にも泣きだしそうな顔をしていた。そしてふと周囲を見渡すと、抱き付くクルミの向こうにある、海と空と、それを割る水平線が目に入った。
「どこ……ここ?」
「わかんない。機体が大破して、だいぶ流されちゃったみたい。それに……」
 クルミが指をさす。その方向を見ると――。
「あっ……」
 大破した自分達のヴァリアントがそこにあった。機体から灯が消え、もはや半分スクラップになっているといってもおかしくない状態で。
「よく、ここまで耐えたね」
「私達のヴァリアント、壊れちゃったの?」
「かもしれない」
「今迄、あんなにがんばってくれたのに……」
 素手で機体に触れる。とても冷たかった。
「――ごめんよ。そして、クルミを守ってくれてありがとう」
 そう、言わずにはいられなかった。
「……兄さんもよ」
「うん」
 そうして、しばらくしてから改めてボクは周囲を見渡す。まずは状況を把握しなきゃ。
「それにしても、見渡す限り浜辺……奥地は密林……水平線上には島影一つ見えない」
「これってもしかして、遭難かな……?」
 だとしたら、少々流され過ぎだ。日の傾きから見ても、戦闘があった地点からそう離れていないはず……。
「今、何時?」
「1330時」
「戦闘開始からまだ一時間と少し。そんなに遠くじゃないはずだよ。とりあえずボクの端末で先生と連絡を取ってみる」
 それを聴いてクルミは安堵する。
「よかった。私のは衝撃で壊れちゃってたの。それでなんとかなるかな?」
「なるさ。だから、クルミはゆっくり休んでて」
「ううん。私も何かしたい」
「じゃあ、偵察しよう。ここは戦線から完全に離れてしまっているみたいだし。その前に休憩して、水と何か口に入れるものを……」
「あっ、じゃあコックピットに隠してたお菓子も持ってくる!!」
 ――そんなものをこっそり持ち込んでいたのか。
 まぁ、とりあえず先生と連絡を取ってみよう。さっきまでの戦闘が嘘だったかのように静かな海を眺めながら、携帯端末をおもむろに取り出してみる。


『シュン!無事だったのね!!』
「ええ。すみません。ボクがふがいないばかりに」
『いいえ。貴方たちが無事でよかったわ。全ては私の責任よ』
「先生……」
『あなたの信号はキャッチしたわ。クルミは?』
「一緒です。ただ、クルミの端末は壊れてしまったようで……」
『そう。とにかく、すぐに哨戒の隊をそちらにも回すわ。陽が沈むまでには貴方たちを基地に戻してみせる。だから、今は動かず待機。いいわね』
「了解しました。それより先生――」
『なにかしら?』
「ボクらを襲撃しにきた漆黒のMeS。あれは一体何なんでしょう」
『……悔しいけど、私もわからないわ。照会もしてみたけど、該当する敵データもなし。すぐに報告も上げたけど、今のところ本部から反応はないわね』
「ボクも自信がないですが、あれは異質な感じがしました。ただのゲリラとは一線を画している、そんな異様な感じです。ちょっと漠然としていて申し訳ないですけど」
『正直なところ、私も同意見よ。あれがただのゲリラの一味だとはとても思えない。まるで、そうね――ゲリラに紛れて目立たない場所で、試作機のテストをしていた。そういう感触だった』
「同感です。そしてコックピットを狙わず、ボクらのヴァリアントをただ無力化したという点も、少し腑に落ちません。今日、ボクとクルミが死ななかったのは単なる幸運と、相手の気まぐれにしか思えないです」
『確かに……』
 先生が得た情報を斟酌するような間ができた。そして、言う。
『あなたのその報告も含めて、本部に上申するわ。とりあえず今は味方部隊と合流するまで待機。OK?』
「はい」
 通信を切る。陽射しは強い。機体がうち捨てられている浜辺で、さざ波ととも陽が傾き始めるのを感じていた。


「どうだった?」
 後ろからクルミの声がした。
「どうにかなりそうだよ。日没までには迎えが……ってうわぁっ!」
「どうしたの?」
「どうしたって……恰好!!」
「だって暑いし、スーツは乾かしてるし……」
 下着にシャツをひっかけているだけ。
 体のラインが丸見えだった。
「だからって、そんな丸見えな……」
「兄妹でしょ。今更じゃないの」
「敵地だったらどうすんのさ!」
「戦線から離れてるって言ったのは兄さんでしょ。それより、迎えは来るの?」
「日没までには捜索隊が来てくれる。それまで待機」
「ってコトは、自由時間!?」
 クルミが急に目をキラキラと輝かせてきた。
「自由じゃないよ。待機時間」
「うん、待機するする!泳いで、探検して、海を眺めながらちょっとしたバカンス!」
「違う違う。調査して、偵察して、安全の確保」
「いいじゃない!二人なんだし、固いコト言いっこなし!食べ物も探したら何か出てくるんじゃない!?」
「それは物資の調達……はぁ」
 まるで夏休みを謳歌したいと浮足立つ子どもだ。……そういえば、ここは海だっけ。とても静かだ。さざ波、風の囀りと、靡く草木。それが耳に馴染む。休むことなく聞いていた、戦地での耳をつんざく金属の衝突音は、ここには無い。
 こんな時間は、すごく久しぶりな気がする。
「これも、君のプレゼント、かな?」
 語らないヴァリアントを背に、そんなコトを呟いてみた。
 そういえば、ボクもクルミも、まだそういうのを楽しんでいい年代のはずだった。
「ねぇ、泳ごう!!」
「裸で?風邪ひくよ」
「実はね、コックピットに水着を隠してあるのよ!取ってくる!!」
 やれやれ。さっきまでのシリアスな雰囲気が粉みじんだ。


「兄さーん。一緒に泳ごうよ~」
 水着で浅瀬を走り回っていたクルミが、ボクを海へ呼びかける。
 一方ボクは、コックピットや機体まわりをにらめっこしながら機械をいじりまわしていた。すごい陽射しだ。装甲や機器が焼けて手がヤケドしてしまいそうだ。
「兄さん、せっかくなんだし遊ぼうよ」
「もう少ししてからね」
「さっきから何してるの?」
「持ち帰れるモノは持ち帰りたいし、そうでないものは廃棄する。機密になるモノは処分しなきゃ」
「マメねぇ」
「大事なコトだよ」
 クルミが作ってくれたジャンバラヤをたまに口に入れてみたりする。スプーンと工具を忙しなく持ち替えているボク。
「おいしい?」
「うぉあっ!!?」
 ボクのうなじにクルミの吐息がかかった。
「なぁに?驚きすぎ」
「う、うん」
「美味しい?」
「お、美味しい」
「そう、よかった!」
 クルミがにっこり笑った。その向こうには太陽が見える。
「その作業、あとどのくらいかかるの?」
「もう、ほぼ終わったよ。データもボクの端末に移行しきった。だから……」
「じゃあ、後は遊ぶだけね!!行こっ!」
「――そうだね」
 クルミの手を引かれて、ボクは波打ち際に出た。クルミは再びはしゃぎながら浅瀬で走り回る。
「どうしたの?兄さんは入らないの?」
「ボクは水着を持ってきてないから。ここで見ているよ」
「じゃあ裸で入る!!」
 クルミがボクのシャツを引きはがす。そして有無を言わさず海へ引きずり込んだ。
「い、いきなりなにを!!?」
「ズボンも脱いで!」
「い、いやだ!!」
「いいから!」
 それから、クルミが何も言わずボクにぴったりくっついた。海水の冷たさの中に、人肌の温かみを感じる。
「クルミ?」
「たまには、いいでしょ?多分、滅多にないことだもの」
 クルミ――。
「そうだな。今くらいなら……」
 そうして、しばらくの間、ボクらは海で波に身を任せ、漂っていた。
 晴れ渡る空と、遠い水平線の向こうを、眺めながら――。
「……それにしても」
「なぁに?」
「いや……」
 ――それにしても、妹に服をひんむかれる自分って、なんなんだろ。


 陽が傾いてきた。ボクとクルミは海から上がり、ずぶ濡れの隊服を干し、海を眺めている。ボクが来てるのはせいぜい下着くらいだ。
「迎え、まだかな」
 まだ水着のままのクルミが、沈みかけの夕陽を眺めながら言う。
「もう間もなくだよ」
「来なかったらどうする?」
「来るよ」
「兄さんと一夜明かすのもいいかな!かな!!」
「だから来るって」
「じゃあ私、その辺で食べ物探してくる!見た感じ色々ありそう!!」
 ……なんか、バカンスのスイッチが入ってないか?さっきからビミョーにボクの話を聞いていないような。
(それにしても、確かに遅い。もう間もなく陽が沈む――)
 もし、来なかったらどうしよう。クルミとここで待つことになるかな。夜明かし自体はともかく、もう一度、状況確認で通信を入れてみようか……。
 そんなことを考えている頃合いだった。

 空から聞きなれた近代的な音がする。
 ローターが旋回する、ヘリコプターの音。

 咄嗟に見上げた。連邦の記章が視認できた。ボクが手を振るまでもなく、こちらへ近づいてくる。そして――。
「シュン!無事か!?」
 旋回するヘリのローターの爆音に交わりつつ、聞き馴染みのある声が響いた。
「シンヤ!?」
 けたたましい音を上げるヘリが砂埃をあげながら着地する。チームメイトのシンヤがヘリから降りてきた。
「無事だな。なによりだ」
「どうしてシンヤが?」
「ああ、出迎え役を買って出たんだ。先生の命令もあってな」
「そうだったの……」
 連邦の軍服に身を包むシンヤが、なぜか懐かしく感じられた。
 少し、この空間に感化されすぎちゃったかな?
「なぁ、ところでシュン」
「な、なに……?」
「なんでお前、裸なんだ?」
 わすれてた。
「なッ、ななななななんでもない!!!!」なぜか顔が真っ赤になる。
「ここにハルカやフィーがいなくてよかった」
 シンヤが苦笑いをしながら、ボクに着替えを投げてよこす。
「どうして?」
「どうしてってお前……それよりクルミは?」
「ああ、それなら……」
 そう言って後ろを差すと、奥からクルミが走りながら
「兄さん、バナナとヘビが……ってシンヤさん!」
「なんだ、クルミはサバイバルでも逞しいことだなって……なんで水着なんだよ!?」
 シンヤがクルミを視るなり、いきなり顔を真っ赤にしてクルミに着替えの隊服を投げつけた。
「いきなりなんですか!?」
「お前ら遊んでたのかよ!」
「しっかり待機してましたよ!!」
「わかったからそれより服を着ろ!!」
 陽が沈んでいく浜辺で、シンヤの保護者みたいな叫びが空に響く。

 一通り着替えを済ませ、それから哨戒のヘリに乗り込んだ。落ち着いてから、シンヤが呟くように言った。
「無事でよかった……。本当に」
「シンヤ……」
「シンヤさん……」
 こうしてボクとクルミは、連邦のヘリに乗って基地に帰還した。すると、さっきまでの出来事がまるでウソみたいに、自分達の現実が戻ってくるのを実感する。クルミも、浜辺であったことについては何も語らず、いつも通りの態度に戻っていた。そしてボクは先生やシンヤから帰還の労いを受けた後、「自機、大破」というなんともバツの悪い報告書をあげなくてはならなくなった。
 待機中の出来事は、任務の間でできたささやかな憩いの時として、自分の胸にしまっておく……。
 しばらくすると、クルミがボクの方に寄ってきて、耳元でささやく。
「兄さん」
「なに?」
「お互い、無事でよかったね」
 そう言って、ボクたちの部屋に戻っていった。
「――そうだね」
 なんとなく、ボクもつぶやく。
 こうして、今日もここで夜が更けていく。作業をひと段落させ、夏の夜を感じ入りながら、ボクは眠りについた。


End of 34th day……


[PR]
by tuyuri_felnar | 2016-06-21 23:11 | 創作小説

漫画やビデオゲームのライティングや小説執筆等を中心に活動してます。


by ななくさ つゆり